yandyandy’s diary

心臓リハビリテーション指導士から、心臓を持つすべての人へ

ピアサポートだけでいいの?

ピアサポート」という言葉を聞いたことがありますか?

障害者やアルコール依存症などの病気、子育てに悩む親などが、同じ立場の人たちと悩みを相談し支え合う活動として知られています。

家族や専門家には相談しづらい事も、当事者同士であれば相談しやすく、気持ちの共感も得られ不安が軽減すると言われます。

厚生労働省においても、障害者ピアサポート研修事業を推進しており

地域相談支援事業所等へのピアサポート職員の配置による加算も始まりました。

 

しかし、当事者同士で分かち合う、支え合う、それだけで良いのでしょうか。

今回は、障害者におけるピアサポートについて考えていきます。

ピアサポートとは

英語で「peer support」

「peer」...仲間、(年齢、地位、能力などが)同等

「support」...支援

日本語では「仲間を支える」となります。

障害領域における 「ピアサポート」は以下のように様々な定義があります。

障害のある人生に直面し、同じ立場や課題を経験してきたこと を活かして仲間として支えること

 

岩崎香・秋山剛・山口創生・宮本有紀・藤井千代・後藤時子:障害者ピアサポートの専門性を 高めるための研修の構築.日本精神科病院協会雑誌、36 巻 10 号、p.20-25、(2017)

 

自ら障害や疾病の経験を持ち、その経験を生かしながら、他の障害や疾病のある障害者のための支援を行うもの

厚生労働省

 

一般に同じ課題や環境を体験する人がその体験から来る感情を共有することで専門職による支援では得がたい安心感や自己肯定感を得られること

 

障害者総合福祉推進事業「ピアサポートの人材育成と雇用管理等の体制整備のあり方に関する調査とガイドラインの作成」

 

その病気を持つ人にしか分からない悩みがあり、

家族や友人に伝えてもなかなか共感が得られず、

また悩んでしまう事もあるでしょう。

そんな時、同じ病気を持ち、同じ悩みを抱えている人と知り合ったら

自然と話をしたくなりますよね。

そして、その人が同じ悩みを乗り越えていたら

自分も出来るかもしれない!

と、前向きな気持ちになり一歩前に進めるかもしれません。

また、自分だけでは得られなかった情報が得られたりします。

 

障害者ピアサポートのひとつとして、病気を持つ当事者、その家族を中心とした「患者会」という団体があります。

先天性心疾患であれば、『全国心臓病の子どもを守る会』の中にある『心友会』がそれに当たります。

www.heart-mamoru.jp

 

では、今後もこのような患者会SNSでのコミュニティが増えていけば

病気を持っていても住みやすい社会になるのでしょうか。

現在も、様々な患者会が発足し

病気をもっと知ってもらいたい、住みよい社会にしたいと活動しています。

ですが、現状はなかなか変わりません。

 

ピアサポートのメリット・デメリット

ピアサポートは、当事者であれば特に行うための資格などは必要ありません。

ピアサポートを受ける事は以下のようなメリットがあります。

 

・体験の共感・共有ができ自己肯定感が得られる

・体験に基づき相談ができるため、病状の説明などが必要ない。

・自分と同じ病気を持ちながら生活している姿が、ロールモデルとなり助言も受け入れやすい。

 

では、デメリットはどうでしょう。

 

・愚痴の言い合いになる危険がある

・前向きなロールモデルでないこともある

・そのコミュニティやピアサポートへの依存

 

共感できる部分が多いからこそ、現状への不満も言い出したら止まらない…

なんていうこともあります。

ただ話を聞いて欲しいだけであれば問題ありませんが、

このようなやり取りでは

悩みや不安を解決する事や

自己肯定感を高める事は難しくなります。

 

そして、デメリットの中で「コミュニティやピアサポートへの依存」は

特に注意したい点です。

 

「なった人にしか分からない。」

私は、理学療法士として患者さんのリハビリをしています。

その中で、よく言われる言葉があります。

 

「(病気に)なった人にしか分からないよ。」

「なった事ないから、そう言えるんだよ。」

 

その通りです。

 

ありがたいことに、私は元気に産まれ、大きな病気や怪我もなく育ちました。

リハビリ職を選びましたが、リハビリは受けたことがありません。

 

そんな私に、この言葉はとても深く刺さります。

もちろん気持ちは理解できないけど、理解したいと思った私を拒絶された気分でした。

これは、障害者が作る壁だと思っています。

(障害受容の問題でもありますが、今回は割愛します。)

 

患者同士のコミュニティやピアサポートへの依存も同じように、他者の拒絶に繋がる危険があります。

自分と同じ病気を持ち、共感してくれる人の存在はとても大きく心強いものです。

しかし、そこに依存し自分とは違う人、

病気を持っていない人に対して、「あなたには分からない」と拒絶することは

本来ピアサポートの目指すものとは違います。

 

自分と境遇が異なる他者であっても受け入れることができなければ、社会で生きていく事はとても大変です。

 

多様性の社会に必要なもの

近年、「多様性」という言葉が使われるようになり

障害もひとつの個性として、社会に受け入れられるようになってきました。

多様性と一言で言っても

そこには様々な属性があります。

年齢、性別、国籍、人種、障害の有無・・・

価値観、宗教、学歴、受けてきた教育・・・

 

つまり、全く同じ人なんていないのです。

 

同じ病気を持っていても、育ってきた環境や受けてきた医療は違います。

同じ病気を持つ人たちが集まっても、またそこで差別化が始まる事があります。

自分は手術を〇回している、あの人は有名な先生に手術してもらってる…

いわゆるマウントを取り始める人が少なからず現れます。

もちろんこの現象は、病気があってもなくても集団である以上見られるものなのです。

 

問題はそこなのではないでしょうか。

 

ピアサポートで得られる自己肯定感とは

自分自身を受け入れ、尊重し、ポジティブに捉えることができる感情のことをいいます。

他者と比較して何ができるか、何を持っているかなどで優劣を決めるのではなく、評価や成果の有無にかかわらず自分軸を持ち、そのままの自分を受け入れます。(人事労務用語辞典から引用)

 

他者との比較の中でしか自分の価値を見出せない人は、自己肯定感が低いと言われます。

社会は、様々な属性を持つ人が集まって作り上げています。

異なる属性のものを同じ物差しで測って意味があるのでしょうか?

多様性が必要と言われる社会となり、私たちは新たに多様性を受け入れるという努力が必要になってきました。

自分とは違う相手を受け入れる。

ピアサポートは、その為の準備だと思います。

 

自分を知ってもらう、相手を知ろうとする努力

ピアサポートを受けながら、病気の有無に関係ない『仲間=ピア』を作りましょう。

クラスメイト、職場の同僚、同じ趣味の人、

どんな共通項でも構いません。

まずは、自分のことを知ってもらう努力をしましょう。

「どうせ分からない」と思って努力をしなければ何も変わりません。

病気のことも含めて、自分というものを伝えていきます。

人に伝えるためには、自分がしっかり理解していないといけません。

そして、相手のことも知ろうとする努力をしましょう。

そこで知り合った人たちにも、それぞれ悩みや不安はあります。

決してその悩みを自分と比較してはいけません。

 

他者と比較しない事は、とても難しいと思います。

だからこそ、ピアサポートは必要なのです。

他者と比較して羨ましく、自分の状況がつらく感じたら

いつでも助けを求める場所があることが大切です。

ピアサポートは、患者同士が支え合い、助け合い

個人が社会で自立していくための支援です。

団結力を高めて、社会に訴えるだけでは社会は変わりません。

個人が変わっていかなければ、社会への不満は尽きません。

『ピア』が増えるほど、社会は住みやすくなります。

病気だけではなく、様々な『ピア』を見つけていきたいものです。

 

まとめ

将来的に、ピアサポートがひとつの職種として確立されたら障害者の働き方にも変化がでるかもと期待しています。

ピアサポートは、病気を持っていない私にはやりたくてもできない事です。

悔しい!でも、仕方ないので自分にできることをやっていきます。