yandyandy’s diary

心臓リハビリテーション指導士から、心臓を持つすべての人へ

貧血と心臓を考える

女性に多く見られる貧血ですが、その原因は鉄分だけではありません。また、貧血は心臓にも影響を与えます。

貧血とは

貧血とは、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンという物質が少なくなった状態です。血液は骨髄で造られ、全身に酸素や栄養分、ホルモンなどを届ける働きがあります。この中で特に重要な、酸素を全身に運搬する際に必要なのがこのヘモグロビンです。ヘモグロビンは主に鉄を含む「ヘム」という色素とたんぱく質が結合して出来ており、これが酸素と結合します。

血液検査では「Hb」と表記され、女性は11g/dl、男性は13g/dl以下で貧血と判断されます。おおよそ10g/dl以下になってくると、自覚症状として頭痛や倦怠感、目眩や息切れなどが現れます。

 

貧血の種類

貧血は原因によって以下のように分類されます。

①鉄欠乏性貧血

②悪性貧血(巨赤芽性貧血)

再生不良性貧血

④溶血性貧血

順を追って説明していきましょう。

①鉄欠乏性貧血

名前の通り、鉄の欠乏(不足)によって生じる貧血です。ヘモグロビンの合成には鉄が不可欠であり、この鉄が不足する事でヘモグロビンの合成が低下し血液中のヘモグロビン量が減少してしまいます。貧血の中で一番多く、特に女性に多くみられます。

治療としては、鉄の補充です。食事で補充する他、鉄剤などの服用も有効です。

 

②悪性貧血(巨赤芽性貧血)

以前は治療法がなくこの名前がついたそうですが、現在では治療が可能です。赤血球の合成には、鉄の他にビタミンB12葉酸などの造血ビタミンが必要です。これらのビタミンが不足し、赤血球の増殖に異常をきたしたものを悪性貧血と呼びます。

治療は、ビタミンB12葉酸の補充です。しかし、胃の全摘出後や胃粘膜の萎縮など胃に障害があるとビタミンB12の吸収に必要な内因子を造り出す事ができません。その際には、内服ではなく筋肉注射で補充します。

 

再生不良性貧血

こちらは、難病指定されている難治性の貧血です。骨髄の造血幹細胞機能不全により、赤血球、白血球、血小板の全ての減少をきたす貧血です。

 

④溶血性貧血

赤血球は約120日周期で、破壊と造血を繰り返しています。その際に、破壊が亢進し造血が追いつかなくなった場合に貧血となります。原因は、自己免疫性や遺伝性など様々です。

 

⑤腎性貧血

腎臓の障害されると、エリスロポエチンの産生が低下する事で貧血となります。腎臓で産生されるエリスロポエチンは、赤血球の産生に必要な造血因子です。

 

貧血を予防するには

これらの貧血の中で、予防ができる貧血は①鉄欠乏性貧血と②悪性貧血です。この2つは、日頃の食事で十分に予防が可能です。鉄分、ビタミンB12葉酸を含む食事に加え、胃の粘膜を守る為にも暴飲暴食や刺激物は控えめにしましょう。また、コーヒーや緑茶に含まれるタンニンは鉄の吸収を阻害する為、食事の前後は避けましょう。

食材や食事のレシピは、以下のサイトが参考になると思います。

https://www.aska-pharma.co.jp/mint/recipe/recipe03.html

 

貧血と心不全

貧血は心臓とは関係がないように見えますが、慢性心不全の人の30%に貧血が合併しています。また、貧血を合併している心不全の人はしていない人に比べて全死亡や心不全による再入院率が高く、貧血が心不全の強い予後規定因子である事が明らかとなっています。そして、貧血を合併した慢性心不全の人の約50%が鉄欠乏性貧血と言われています。しかし、鉄剤の投与(静注)は一時的な改善はあるようですが長期予後への関連は明らかにされていません。心不全による貧血では、栄養障害や腎機能障害、体液の増加によるものなど原因は多岐に渡ります。これらは、心不全から貧血を生じている為、先程述べた食事での予防や改善には限界があります。では逆に、貧血から心不全を生じる事はあるのでしょうか。

 

貧血が心臓に与える影響

はじめにお話したように、酸素はヘモグロビンと結合して全身に運搬されます。貧血になると、肺で十分に酸素を取り込んでも、そこに結合してくれるヘモグロビンが少ない為に全身に運搬される酸素が少なくなります。それによって体内は低酸素状態となります。人の身体は恒常性維持の為、なんとか体内の組織に酸素を供給しようと様々な代償機構が働きます。その1つが心臓です。心臓は一回拍出量や心拍数を増やし、多くの血液を送り出す事で酸素の供給を増やそうとします。この代償機構は、心疾患を持っている心臓にとっては大きな負荷となります。その負荷に耐えきれず代償機構が破綻すると心不全へと繋がってしまいます。その為、先天性心疾患や成人先天性心疾患の人にとっても貧血予防はとても大切になります。

 

パルスオキシメーターの落とし穴

貧血が進行すると、息切れが生じます。しかし、パルスオキシメーターで経皮的血中酸素飽和度を測定すると正常な事が多いのです。その為、つい様子を見てしまって心不全となってしまうケースもあります。パルスオキシメーターは、酸素飽和度という「ヘモグロビンが酸素とどの程度の割合で結合しているか」を簡易的に測定している機械です。肺うっ血等で酸素の取り込みに問題が生じた場合、血液中のヘモグロビンは酸素不足により酸素と結合できないものが増えます。つまり、酸素飽和度は低下します。貧血の場合、酸素の取り込みは十分に行われる為、ほとんどのヘモグロビンは酸素と結合できます。つまり酸素飽和度は正常となるのです。パルスオキシメーターの値が正常でも、息切れや倦怠感、目眩等の症状が続く場合は受診をおすすめします。

 

まとめ

女性にとっては比較的身近な貧血ですが、「怠いなぁー。貧血かなぁー。鉄分摂ろう。」くらいで、意外と軽く見られがちです。小さな変化ではありますが、心臓には負担がかかっている事をお忘れなきように。

 

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