yandyandy’s diary

心臓リハビリテーション指導士から、心臓を持つすべての人へ

移行医療を考える

『先天性心疾患の成人への移行医療に関する提言』を読んでます。

http://sentenseishinshikkan2.pdf (umin.ac.jp)

今回は、この提言の内容を基に先天性心疾患の移行医療を考えてみました。

 

移行期っていつ?

移行期と言っても、何歳からが成人先天性心疾患(以下、ACHD)です!という線引きはなく対象年齢は12〜20歳とおおまかな範囲となっています。病気への理解や自立への準備、移行医療への引き継ぎなど、年齢だけでは規定できない部分が大きいのです。

 

移行医療とは?

提言の中に

「先天性心疾患の成人への移行医療には、患者の自立と成人期医療体制への移行の両者が含まれる」とあります。

 

○患者の自立

患者の自立とは、自らの病気を理解して自己決定ができるようになることです。

その為には、小児期から自分の病気についての教育を受ける必要があります。

円滑な移行のためには、病気を理解できる6歳頃から心臓病に関する教育を始め、15歳頃までには自分の病名や手術内容を完全に理解しておくことが望ましいようです。

この時、病名だけを覚えるのではなく、自分の心臓をしっかり想像できるように図表を用いて医師や医療関係者は具体的に説明していかなければいけません。

6歳から15歳まで、しっかり時間をかけて教育していくことになるでしょう。

しかし、誰がどのようにこの教育に関わっていくのかまだ漠然としていて、小児分野での確立が望まれます。

提言の中にもありますが、個人的にも教育に関しては看護師の力が大きいと思います。

小児期は、手術を繰り返している途中の子どももいるでしょうし、親もまだ病気に対する理解が不十分で、将来に対する不安もあるでしょう。

この時期は、子どもと共に親へのケアと教育も必要だと思います。

移行期を迎えた時に、小児医療や親子間の依存があると移行は円滑に進みません。

親も子どもと歩き出せるように、一番多くの時間関わるであろう看護師にその役割が期待されています。

問題としては、ACHD専門看護師が少ないこと。

教育まで担うことで看護師の負担増加が考えられるところでしょうか。

 

○成人期医療体制への移行

患者の成長、自立に伴い小児循環器科から成人循環器内科への移行が望ましいと言われています。

なぜ移行が必要なのでしょうか。

小児循環器科医は先天性心疾患については熟知していますが、成人期の内科疾患(生活習慣病,加齢に伴う変化,悪性疾患など)や妊娠出産などの対応に慣れていません。また、小児医療施設であれば診察環境が成人向きではありませんし、小児循環器科医の人数は少なくマンパワーに限りがあります。

これらの理由からも、移行は必要でありこの移行を円滑に行うことが昨今の課題なのです。

 

移行医療体制の問題

最近は、移行期外来という小児診療から成人診療への移行を円滑にするための外来があります。

成人診療施設に一気に移行するのではなく、小児診療施設とどちらも受診しながら徐々に移行していく形です。

このスタイルは患者側の安心感はありますが、医療側の連携がかなり密でないと患者側に混乱が生じる危険もあります。

医療機関の連携は、移行医療の基軸です。

移行後の医療体制として、以下のようなネットワークの構築を目指しているそうです。

http://sentenseishinshikkan2.pdf (umin.ac.jp)

ACHDに関わらず、最近はかかりつけ医を持ちましょうと言われていますよね。

病院の規模や機能による役割分担は、医療制度整備に欠かせないことなのでしょう。

 

では、ACHDの専門医、または専門医ではないがACHD病態を理解している医師がどれだけいるのでしょう。

成人先天性心疾患専門医総合修練施設も関東が中心で、まだまだ地域格差が大きいのです。

どんなに患者が自立しても、受け入れ先がなければ移行はできません。

かかりつけ医を持ちたくても、ACHDを診たことのない医師では患者は不安です。

 

この移行医療体制の問題は、ACHDだけではなく小児期発症慢性疾患という広い範囲で共通の課題となっています。

https://transition-support.jp/about

移行期支援者養成事業はとても気になります。

今後、移行医療に係わる人が増えてくることを願います。

 

移行医療だけど医療だけじゃない

移行期に必要な教育や支援は、病気や手術に関する事だけではありません。

社会において自分が受けられる医療保障制度、社会保障制度をしっかり学んでおくことは、就労を含め社会的、精神的自立に繋がります。

医療機関であれば社会福祉士の役割が大きいでしょう。

このように、移行医療には様々な職種が情報を共有していくチーム医療が必要不可欠です。

しかし、医療機関の医療チームだけでいいのでしょうか。

私達が生活しているのは医療機関ではなく地域社会です。

地域社会も巻き込んだ移行医療を考えていく必要があると思います。

小児期から移行期では学校生活、移行期から成人期では就労や一人暮らしなどの生活環境も大切な要素です。

先天性心疾患を持って産まれた時点で、その子の人生に『医療』が含まれます。

『生涯医療』と言われるように、根治手術を終えても生涯に渡り定期的な診察や治療が必要な事が多いのです。

でも、その子の人生全てが『医療』ではありません。その子の生活があって、そこに医療があるだけなのです。

移行医療を考えていく上で、この地域社会との関わりは必ず必要で、医療従事者もその視点は忘れてはいけません。

 

まとめ

移行期医療センターの設置など、少しずつですが移行医療体制を整える動きがでています。

しかし、医療体制の整備は、医師数の増加も含め一朝一夕で実現できるものではありません。

個人が今できることをやるしかありません。

自分で考え、自己決定していく。

疾患の有無に限らず必要なことですね。

さて、私には何ができるでしょう。

 

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