yandyandy’s diary

心臓リハビリテーション指導士から、心臓を持つすべての人へ

根治手術したら完治?

 先天性心疾患のこどもは手術を何回も受けることがありますが、その多くは「姑息手術」と呼ばれ、出来るだけ侵襲を少なく心臓や肺の負担を減らしてあげる手術です。そこから「根治手術」を目指していきます。

 

根治(コトバンク)こんち・こんじ
① ものごとを本から退治すること。根本に及んで、その非をただすこと。ねきり。ねだやし。
※随筆・折たく柴の記(1716頃)下「其事根治したらむには、事明らかなるべけれど」 〔宋史‐兵志〕
② 病気を根本から治すこと。また、病気が完全に治ること。
※東洋学芸雑誌‐四〇号(1885)加藤弘之先生の一大疑問に答ふ〈新渡戸仙岳〉「内科的の病根治は尚難けれども、外科的病に至りては大抵根治するを得るの傾向あり」

 

根治手術ってどんな手術?

 大きくふたつに分かれます。ひとつは、心室中隔欠損症に対するパッチ手術(当て布で穴を塞ぐ)のように手術することで本来の血液循環へ戻すもの。傷ついたところを治す、足りないところを足す、余計なものを取り除く、という手術です。

 もうひとつが「フォンタン手術」と呼ばれる手術です。この手術は、単心室、左心低形成症候群、三尖弁閉鎖症などの「使える心室が1つしかない病気」に対して行われます。心室が1つしか使えないと、全身から戻ってきた酸素の少ない血液(静脈血)が肺から戻ってきた酸素が豊富な血液(動脈血)と1つの心室で混ざり合い、全身へと送り出されてしまいます。すると、全身には酸素が十分に行き渡らず低酸素血症となりチアノーゼを生じます。そこで、上大静脈、下大静脈を肺動脈につなぎ、全身から戻ってきた血液が右心系を介さず直接肺血管へ送られる新しい血液循環を作り出します。フォンタン手術を施行する為には、心機能だけでなく肺や血管の状態などいくつかの条件があり、フォンタン手術に向けて少しでも心臓や肺に負担がかからない状態が保てるように事前に様々な手術を施行します。肺高血圧症は手術適応外となります。フォンタン手術後は、チアノーゼは改善し血中酸素飽和度も90〜100%近くになります。

         ソース画像を表示

フォンタン手術とは - 東大病院心臓外科・呼吸器外科 (u-tokyo.ac.jp)

 

手術が終わったら完治?

 無事に手術が終わり、本来の血液循環となり、新しい血液循環(フォンタン循環と呼ばれることも)が出来上がり、酸素が全身に行き渡るようになりました。では、病気は完治したのでしょうか。根治手術というのだから、完治したのでは?前述のパッチ手術のように足りない部分を補い本来の血液循環に戻した場合は、心機能の低下や重篤な合併症がなければ多くの人が運動制限もなく日常生活が送れるようです。しかし、フォンタン手術後は状況が異なります。新しい血液循環が出来、酸素は供給されていますが心臓には1つの心室しかなく、本来の機能や働きとは異なります。そして、本来は右心室のポンプを利用して肺に送り出されていた血液は、静脈だけを通って肺に向かうので、運動時など静脈環流量が増加した際に対応しきれない事があります。その為、うっ血による浮腫や肝障害を起こしやすいと言います。症状に応じて利尿剤の使用など内服が必要となる場合があります。その他にも不整脈や蛋白漏出性胃腸症、心機能低下、血栓症、房室弁閉鎖不全など多くの合併症や後遺症が起こる可能性があります。その為、定期的な通院は欠かせません。

 

いつまで通院すればいいの?

 分かりません。主治医との相談になるでしょう。

 

まとめ

 フォンタン手術が報告されたのが1971年。そこから少しずつ形を変えて治療成績は格段に上がりました。しかし、まだ50年程度の歴史の中ではフォンタン手術後の長期予後が確立していません。フォンタン手術が報告され実施されるようになり、先天性心疾患を持って生まれてきた多くの子どもの命が救われています。ですが、その子ども達が成長し大人になっていく中で、自分の身体や社会生活に不安を抱き困っている事も事実です。長期予後良好な新しい術式などの小児心臓血管外科の治療技術の更なる発展を待ちながら、遠隔期治療で苦しむ事のないよう循環器内科への円滑な移行や就労など医療分野以外での心疾患に対する理解を深めていけるよう、微力ながらここで発信していきます。