yandyandy’s diary

心臓リハビリテーション指導士から、心臓を持つすべての人へ

胸骨正中切開術の裏側

心臓の手術を経験した人の多くには、胸の中央に縦に走る傷跡が見られます。

この傷跡を持つ人は、胸骨正中切開術という手術を経験しています。

術後は、痛みもあり切開した骨が癒合するまで強い力が入れられないなどの制限もあります。

 

目で見える位置に大きな痛む傷があったら、気になりますよね。

でも、手術の影響はそこだけではないのです。

大きな傷の裏側、背中にも注意が必要です。

 

胸骨正中切開術とは

心臓の手術で主に行われます。

胸骨とは、胸の中央にある縦長で平坦な骨です。

胸骨の正中(真ん中)を縦に切開し(図の黒線)、開胸器という器械で左右に胸を開きます。

こうすることで心臓がよく見え、手術を安全に行う事が出来ます。

      

http://doctorblackjack.net/heart/heart_04-01.html

手術後は、縫合用の糸やワイヤーなどで固定します。

これは、胸骨を意図的に骨折させている状態であり、骨癒合が得られるまで2~3か月を要します。

この間、骨折部(切開部)が動かないように胸帯などで胸郭を固定する病院が多いようです。

 

胸郭とは

胸骨、肋骨、脊柱で囲まれた部分を胸郭といいます。

胸骨と肋骨、肋骨と脊柱、それぞれが関節でつながっており可動性があります。

この胸郭の可動性があることで、呼吸がしやすくなったり、身体を曲げたり伸ばしたり、ひねったりと様々な動きが可能となります。

 

前                   後ろ

         

胸郭(きょうかく)とは何?わかりやすく解説 Weblio辞書

 

手術中の胸郭への影響

手術の際、開胸器を使用し胸骨を左右に押し広げていくと肋骨が後ろに押し広げられます。

肋骨は背中側で、脊柱と関節面でつながっています。

関節は、その関節面の範囲でしか動けません。

そこから逸脱すると、脱臼してしまうのです。

胸郭が広げられるという異常な運動は、肋骨と脊柱の関節(肋椎関節)の可動範囲から逸脱させる危険があります。

その手前で、骨が圧力に耐えきれず骨折してしまう危険性もあります。

(骨折しないように、あえて肋骨を脱臼させているというドクターもいました・・・)

 

心臓の手術時間は、内容により大きく変わりますが

短くても3時間以上はかかると言われています。

3時間もの間、肋骨は脊柱に押しつぶされ続けているのです。

 

術後の胸郭への影響

手術が終わり、胸骨は正常な位置で固定されます。

しかし、まだ切開部分は癒合しておらず胸骨が割れている状態です。

胸郭は囲いとして不十分な形状であり、正常な動きが難しくなります。

長時間圧迫されていた肋骨の動きも悪く、脊柱起立筋など周囲の筋肉も緊張状態です。

また、術後の痛みや安静により体動が困難な状態が筋肉の緊張に拍車をかけます。

術後は、骨の状態だけでなく筋肉の状態に注意が必要です。

 

多くは翌日からリハビリが始まります。

この頃はまだ術創部の痛みが強いのではないでしょうか。

順調に離床が進み、ひとりで動けるようになってくると

少しずつ背中の痛みを訴える方が出てきます。

 

人間の脊柱は、頸椎・胸椎・腰椎と大きく分かれています。

これらの骨は、生理的彎曲といって、横から見るとS字にカーブしています。

 

        

引用:脊髄と脊椎はどう違うの? | 看護roo![カンゴルー] (kango-roo.com)

 

そして、この胸椎の可動域が心臓の手術後に変化するという報告があります。

胸骨正中切開による心臓外科術後の脊柱アライメント・可動域の変化 (jst.go.jp)

 

筋肉や靭帯等の影響を除外した先行研究によると、胸椎の可動域は増加すると言われていました。

しかし、人体の動きを見たこの報告では胸椎の可動域は少なくなり、直立位での生理的な後彎が増強するといいます。

つまり、胸骨を切開することで緩んでしまった胸郭の動きを、筋肉を収縮させて必死に動かないようにしていることが想像されます。

 

術後は、術創部の痛みや違和感により前かがみの姿勢になりやすく、その姿勢により背中の筋肉は引き伸ばされます。

 

一方では収縮させ、一方では引き伸ばされ筋肉への負担は強くなります。

その結果、痛みが生じてきます。

 

術後のケア

この背中の痛みは、筋肉が硬くなっていることが原因として考えられます。

筋肉は、伸び縮みを繰り返していることで柔軟性を保っています。

柔軟性というとストレッチを想像しますが、

胸骨が骨癒合を得るまでは、大きな動きはできません。

 

そこで、おすすめの筋肉ケアは2つ

・胸の筋肉をマッサージすること

・背筋を伸ばすこと

 

前かがみの姿勢が続くと、胸の筋肉が硬くなっていることがあります。

マッサージといっても、擦ったり揉んだりするのではなく

指の腹で優しく押していくだけで大丈夫です。

 

それから背筋を伸ばすことで、胸の筋肉は伸びやすくなり

引き伸ばされていた背中の筋肉は緩みます。

 

背筋を伸ばす時の注意点は、腕は動かさないこと。

 

腕の力で背筋を伸ばそうとすると、大胸筋という大きな筋肉が引っ張られます。

この大胸筋は胸骨につくので、切開部を広げてしまう危険があります。

 

背筋を伸ばすには、肩甲骨の動きが必要になるのですが

一般の方がそこを意識して動かすのは難しいと思います。

なので、「肩を下げながら背筋を伸ばす」と比較的うまくいくと思います。

胸を張るのではなく、背筋を伸ばすだけです。

 

普通の姿勢をとるだけで離開してしまうほど、胸骨ワイヤーは弱くありません。

過剰に怖がらず、背筋を伸ばしましょう。

 

背中の痛みには要注意

ここでは、筋肉の硬さが原因の背中の痛みを取り上げました。

しかし、背中の痛みには大動脈解離、心筋梗塞、など危険な病気が隠れている危険性があります。

背中に痛みを感じたら、まずは医師に相談してくださいね。

 

まとめ

胸骨正中切開術後は、どうしても術創部のケアが中心になりますが、その裏側で頑張っている背中のケアもお忘れなく。

入院中に理学療法士にしっかりケアしてもらって、やり方も教えてもらってくださいね。

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