心房中隔欠損症と心室中隔欠損症
先天性心疾患の中で、最も罹患率の高かった心室中隔欠損症と前回のブログで少し触れた心房中隔欠損症についてまとめてみました。
前回のブログはこちら。
心房中隔欠損症(ASD)とはどんな疾患?
胎児の心臓にある卵円孔が閉鎖せず残ってしまったものを含め、心房中隔に穴が空いている疾患。穴の位置により以下のように分類されます。
①二次孔欠損 卵円孔の位置
②一次孔欠損 心室中隔に接するところ
③静脈洞型 上大静脈、下大静脈の付近
④冠静脈洞型 心臓の静脈の壁(比較的稀)
穴が開くと何が起こる?
まず、血液は圧の高い方から低い方は流れる性質があります。そして、心臓内の圧は右よりも左が高くなっています。それを踏まえて、心房中隔に穴が空いているとどんな事が起きるのでしょうか。
肺で酸素を受け取った血液は肺静脈から左心房に入ります。ここで、心房中隔の穴(欠損孔)がある事で血液は圧の高い左心房から圧の低い右心房に流れ込んでしまいます(①)。すると、右心房には全身から戻ってきた血液と左心房から流れ込んできた血液が加わります。その血液は右心室へ流れ肺動脈に向かいます。血液の量が増えても血管の太さは変わらないのでなかなか送り出す事が出来ません。すると、右心室には血液が溜め込まれ心臓の壁は押し広げられ大きくなります(②心拡大)。すると、右心室は溜め込まれた血液を送り出そうと強い収縮を繰り返していくことで筋肉が肥大していきます(③心肥大)。そして、大量の血液を押し込まれる肺動脈の中はパンパンとなり(④)その先にある肺の血管の圧も上がっていき肺高血圧症となります(⑤⑥)。元々は右心房より左心房の方が圧が高いので血液の流れは左→右(左右短絡)でした。しかし、次第に肺血管の圧が上がってくる事で右心房の圧が上がり血液の流れが右→左に変化します。すると、右心房に流れてきた酸素を使い果たした血液が左心房に流れ込み全身に送り出し、チアノーゼが生じます。この状態になる事をEisenmenger(アイゼンメンジャー)症候群といい予後は良くありません。
治療は?
心不全症状がなく左心房から右心房への血液流出量が少ない場合は、内服等の内科治療や経過観察となります。欠損孔が大きい場合は、外科的手術によりパッチと呼ばれるあて布で閉鎖します。しかし、Eisenmenger症候群を呈している場合は手術の適応となりません。
心室中隔欠損症(VSD)とはどんな疾患?
心室中隔に欠損孔がある病気。欠損孔の位置により以下のように分類されます。
a. 流入部欠損 5~8% 上端は三尖弁弁輪に接する。
b. 膜様部欠損 70~80%を占める。最も頻度が多いのは大動脈弁直下。
c. 筋性部欠損 5~20%を占める。筋組織に囲まれており自然閉鎖が起こりやすい。
d. 肺動脈弁下部欠損(流出路)
穴が開くと何が起こる?
血液の流れは欠損孔が心房側か心室側かの違いで、左→右のシャント(短絡)とそこから起こる心臓の変化は基本的に心房中隔欠損症と同じです。
心室中隔欠損症の場合、弁輪の付近に欠損孔があると弁の閉鎖不全や変形を起こす事で心不全症状が進行する事があります。
治療は?
心房中隔欠損症と同様、外科的手術によりパッチと呼ばれるあて布で閉鎖します。筋性部欠損の多くは生後1~2年で自然閉鎖する事が多く、2歳を過ぎると自然閉鎖する事は稀だと言います。また、弁輪付近に生じた欠損孔は自然閉鎖が期待できない為、手術適応となります。
まとめ
先天性心疾患の中で、比較的多い疾患であり術後の経過も良好と言われています。しかし、多くの疾患を合併していたり、欠損孔が大きく肺高血圧症となっている場合は、経過観察と共に内服等の内科的治療が続くこともあります。また、欠損孔が小さく小児期には無症状であっても、成長につれて不整脈や心不全症状を起こす場合もあり注意が必要です。
様々な疾患を合併している患者さんのほとんどが持っていると言っても過言ではないこのふたつの疾患。この欠損孔が血液循環にどのような影響を与えるのかが分かってもらえればありがたいです。