yandyandy’s diary

心臓リハビリテーション指導士から、心臓を持つすべての人へ

忘れてましたが、ふくらはぎを鍛える前に。

ストレッチをしっかりして、筋肉の柔軟性を取り戻してくださいね。

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筋肉が硬くなっている状態では

筋肉の伸び縮みがしにくくなっています。

筋ポンプは伸び縮みがあってこその作用です。

 

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一応、追記ということで。

第二の心臓、ふくらはぎを考える

第二の心臓と言われるふくらはぎ。

「血液の循環をよくするため、ふくらはぎを鍛えましょう!」というキャッチフレーズを一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

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ふくらはぎを鍛えることで得られる効果は、循環改善だけではありません。

今回は、ふくらはぎが循環だけでなく歩き方に与える影響を、理学療法士の目線で考えます。

 

ふくらはぎの筋肉

ふくらはぎには、大きく長い筋肉がいくつかあります。

代表的なものは以下の2つ

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腓腹筋:内側頭と外側頭があります。

    浅層筋と呼ばれ、表面に近いところにあります。    

【起始】大腿骨内側顆と外側顆

【停止】踵部(ヒラメ筋と合わさって)

【作用】膝の屈曲、足の底屈

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ヒラメ筋:深層筋と呼ばれ、腓腹筋よりも内側にあります。

【起始】腓骨頭

【停止】踵部(腓腹筋と合わさって)

【作用】足の底屈

 

第二の心臓と言われる理由

心臓の役割は、肺で酸素を受け取った血液を全身に送り、酸素を使い果たした血液を再度肺に送り、血液を循環させることです。

この循環の一角を担うのが、ふくらはぎです。

 

酸素を豊富に含んだ血液を全身に運ぶのは動脈。

酸素を使い果たした血液を心臓に戻すのは静脈。

 

動脈の流れは心臓から足に向かうのに対し、静脈の流れは足から心臓に向かいます。

その為、重力に抗して血液を送り出すシステムが必要になります。

そのシステムは4つあります。

 

1) 胸腔内圧の変化(呼吸)による引き込み

2) 動脈の血流による押し出し

3) 筋ポンプ作用

4) 静脈弁

 

このうち、3) 筋ポンプ作用を担うのがふくらはぎです。

静脈の周りにあるふくらはぎの筋肉(主に腓腹筋とヒラメ筋)が伸び縮みすることで、静脈内の血液を送り出します。

 

このとき、4) 静脈弁があるため、押し出された血液は逆流することなく心臓方向に向かうことができます。

こうして、足に流れてきた血液は心臓に戻され循環が維持されます。

 

ふくらはぎの筋力が弱くなると、この筋ポンプ作用が弱まり血液の流れが滞ります。

すると、むくみが起きたり、全身に十分な血液を送り出せなくなったりします。

 

このように、ふくらはぎは心臓と共に全身の血液循環を担う存在なので『第二の心臓』と呼ばれているのです。

 

歩行への影響

ふくらはぎの筋力が低下すると、歩行にどんな影響があるのでしょうか。

 

歩行でのふくらはぎの働き

『歩く』という動作は何相かに分けて考えることができます。

詳細は省きますが、ふくらはぎが1番影響するのは足を後ろに蹴り出す部分です。

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この蹴り出しが弱いと、歩幅が狭くなり歩く速度が遅くなります。

歩幅が狭くなると、同じ距離を歩くためには歩数を増やさなくてはいけません。

つまり、人より多く足を動かさないといけなくなります。疲れますね。

 

人間の歩行は移動手段なので、本来は効率的で疲れにくいものです。

しかし、様々な要因から非効率的な歩行となり疲れやすくなります。

 

心疾患を持つ人は、骨格筋に多くの血液を使ってしまうとその他の臓器への血液供給が減ってしまいます。

そのため、より効率的に動くことが必要なのです。

 

ゆっくり正しく歩く

心疾患がある人は、心臓に負担がかからないようにゆっくり自分のペースで歩くことが大切です。

しかし、ゆっくり歩くとふくらはぎの筋肉をあまり使いません。

筋肉は使わなければ衰えます。

衰えた筋肉を鍛えるのは、とても大変です。

 

そこで、ゆっくり正しい姿勢で歩きましょう。

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これがよく言われるウォーキングの正しい姿勢です。

普段歩くときは、手は自然に下ろしますが基本的にはこの姿勢を意識しましょう。

 

慣れないうちは、全てを意識すると逆にぎこちなく疲れてしまうかもしれません。

 

ここでのポイントは、2つ。

 

お尻 です。

 

お尻にキュッと力が入る感じがあれば、足は後ろに伸びています。

足が後ろに伸びれば、あとは勝手に蹴って前に戻ってきます。

 

実は、「足が後ろに伸びたら足を蹴って前に出す」という動作は人間の中にプログラミングされている動きなのです。

なので、へたに「蹴ろう!」とすると逆に動きがおかしくなるのです。

 

次に、踵からつくことを意識します。

つま先を上げるとふくらはぎの筋肉が伸ばされ、収縮しやすく蹴り出しやすくなります。

 

皆さん、普段どうやって歩いていますか?

自分の歩き方を振り返るいい機会になればと思います。

 

いつもの距離を歩いてみて、歩き方の違いをどう感じるか是非試してみてください。

 

ふくらはぎの鍛え方

正しい歩き方は、ふくらはぎを使います。

ですが、先程もお話したように歩行は効率的な移動手段であって筋トレではありません。

では、ふくらはぎを鍛えるにはどうしたらよいのでしょうか。

 

『踵あげ』

 

これにつきます。

 

立ってやれば、腓腹筋

座ってやれば、ヒラメ筋。

筋トレの定番です。

 

注意点はこちらです。

   

 

座って行う場合も、注意点は同じです。

 

まず30回!

やってみましょう!!

 

ふくらはぎの筋力は、心疾患患者の運動耐容能と相関があると言われています。

特に、ヒラメ筋の厚さが重要です。

心疾患を持つ人には、ヒラメ筋が鍛えられる座って踵上げをおすすめします!

 

まとめ

今回は、循環も含めてふくらはぎに注目しましたが、効率的に長く歩けるためには筋肉をバランスよく使うことが大切です。

心臓に負担が少ない歩き方、考えていきましょう。

胸骨正中切開術の裏側

心臓の手術を経験した人の多くには、胸の中央に縦に走る傷跡が見られます。

この傷跡を持つ人は、胸骨正中切開術という手術を経験しています。

術後は、痛みもあり切開した骨が癒合するまで強い力が入れられないなどの制限もあります。

 

目で見える位置に大きな痛む傷があったら、気になりますよね。

でも、手術の影響はそこだけではないのです。

大きな傷の裏側、背中にも注意が必要です。

 

胸骨正中切開術とは

心臓の手術で主に行われます。

胸骨とは、胸の中央にある縦長で平坦な骨です。

胸骨の正中(真ん中)を縦に切開し(図の黒線)、開胸器という器械で左右に胸を開きます。

こうすることで心臓がよく見え、手術を安全に行う事が出来ます。

      

http://doctorblackjack.net/heart/heart_04-01.html

手術後は、縫合用の糸やワイヤーなどで固定します。

これは、胸骨を意図的に骨折させている状態であり、骨癒合が得られるまで2~3か月を要します。

この間、骨折部(切開部)が動かないように胸帯などで胸郭を固定する病院が多いようです。

 

胸郭とは

胸骨、肋骨、脊柱で囲まれた部分を胸郭といいます。

胸骨と肋骨、肋骨と脊柱、それぞれが関節でつながっており可動性があります。

この胸郭の可動性があることで、呼吸がしやすくなったり、身体を曲げたり伸ばしたり、ひねったりと様々な動きが可能となります。

 

前                   後ろ

         

胸郭(きょうかく)とは何?わかりやすく解説 Weblio辞書

 

手術中の胸郭への影響

手術の際、開胸器を使用し胸骨を左右に押し広げていくと肋骨が後ろに押し広げられます。

肋骨は背中側で、脊柱と関節面でつながっています。

関節は、その関節面の範囲でしか動けません。

そこから逸脱すると、脱臼してしまうのです。

胸郭が広げられるという異常な運動は、肋骨と脊柱の関節(肋椎関節)の可動範囲から逸脱させる危険があります。

その手前で、骨が圧力に耐えきれず骨折してしまう危険性もあります。

(骨折しないように、あえて肋骨を脱臼させているというドクターもいました・・・)

 

心臓の手術時間は、内容により大きく変わりますが

短くても3時間以上はかかると言われています。

3時間もの間、肋骨は脊柱に押しつぶされ続けているのです。

 

術後の胸郭への影響

手術が終わり、胸骨は正常な位置で固定されます。

しかし、まだ切開部分は癒合しておらず胸骨が割れている状態です。

胸郭は囲いとして不十分な形状であり、正常な動きが難しくなります。

長時間圧迫されていた肋骨の動きも悪く、脊柱起立筋など周囲の筋肉も緊張状態です。

また、術後の痛みや安静により体動が困難な状態が筋肉の緊張に拍車をかけます。

術後は、骨の状態だけでなく筋肉の状態に注意が必要です。

 

多くは翌日からリハビリが始まります。

この頃はまだ術創部の痛みが強いのではないでしょうか。

順調に離床が進み、ひとりで動けるようになってくると

少しずつ背中の痛みを訴える方が出てきます。

 

人間の脊柱は、頸椎・胸椎・腰椎と大きく分かれています。

これらの骨は、生理的彎曲といって、横から見るとS字にカーブしています。

 

        

引用:脊髄と脊椎はどう違うの? | 看護roo![カンゴルー] (kango-roo.com)

 

そして、この胸椎の可動域が心臓の手術後に変化するという報告があります。

胸骨正中切開による心臓外科術後の脊柱アライメント・可動域の変化 (jst.go.jp)

 

筋肉や靭帯等の影響を除外した先行研究によると、胸椎の可動域は増加すると言われていました。

しかし、人体の動きを見たこの報告では胸椎の可動域は少なくなり、直立位での生理的な後彎が増強するといいます。

つまり、胸骨を切開することで緩んでしまった胸郭の動きを、筋肉を収縮させて必死に動かないようにしていることが想像されます。

 

術後は、術創部の痛みや違和感により前かがみの姿勢になりやすく、その姿勢により背中の筋肉は引き伸ばされます。

 

一方では収縮させ、一方では引き伸ばされ筋肉への負担は強くなります。

その結果、痛みが生じてきます。

 

術後のケア

この背中の痛みは、筋肉が硬くなっていることが原因として考えられます。

筋肉は、伸び縮みを繰り返していることで柔軟性を保っています。

柔軟性というとストレッチを想像しますが、

胸骨が骨癒合を得るまでは、大きな動きはできません。

 

そこで、おすすめの筋肉ケアは2つ

・胸の筋肉をマッサージすること

・背筋を伸ばすこと

 

前かがみの姿勢が続くと、胸の筋肉が硬くなっていることがあります。

マッサージといっても、擦ったり揉んだりするのではなく

指の腹で優しく押していくだけで大丈夫です。

 

それから背筋を伸ばすことで、胸の筋肉は伸びやすくなり

引き伸ばされていた背中の筋肉は緩みます。

 

背筋を伸ばす時の注意点は、腕は動かさないこと。

 

腕の力で背筋を伸ばそうとすると、大胸筋という大きな筋肉が引っ張られます。

この大胸筋は胸骨につくので、切開部を広げてしまう危険があります。

 

背筋を伸ばすには、肩甲骨の動きが必要になるのですが

一般の方がそこを意識して動かすのは難しいと思います。

なので、「肩を下げながら背筋を伸ばす」と比較的うまくいくと思います。

胸を張るのではなく、背筋を伸ばすだけです。

 

普通の姿勢をとるだけで離開してしまうほど、胸骨ワイヤーは弱くありません。

過剰に怖がらず、背筋を伸ばしましょう。

 

背中の痛みには要注意

ここでは、筋肉の硬さが原因の背中の痛みを取り上げました。

しかし、背中の痛みには大動脈解離、心筋梗塞、など危険な病気が隠れている危険性があります。

背中に痛みを感じたら、まずは医師に相談してくださいね。

 

まとめ

胸骨正中切開術後は、どうしても術創部のケアが中心になりますが、その裏側で頑張っている背中のケアもお忘れなく。

入院中に理学療法士にしっかりケアしてもらって、やり方も教えてもらってくださいね。

自転車こぐだけが心リハじゃない!!

ピアサポートだけでいいの?

ピアサポート」という言葉を聞いたことがありますか?

障害者やアルコール依存症などの病気、子育てに悩む親などが、同じ立場の人たちと悩みを相談し支え合う活動として知られています。

家族や専門家には相談しづらい事も、当事者同士であれば相談しやすく、気持ちの共感も得られ不安が軽減すると言われます。

厚生労働省においても、障害者ピアサポート研修事業を推進しており

地域相談支援事業所等へのピアサポート職員の配置による加算も始まりました。

 

しかし、当事者同士で分かち合う、支え合う、それだけで良いのでしょうか。

今回は、障害者におけるピアサポートについて考えていきます。

ピアサポートとは

英語で「peer support」

「peer」...仲間、(年齢、地位、能力などが)同等

「support」...支援

日本語では「仲間を支える」となります。

障害領域における 「ピアサポート」は以下のように様々な定義があります。

障害のある人生に直面し、同じ立場や課題を経験してきたこと を活かして仲間として支えること

 

岩崎香・秋山剛・山口創生・宮本有紀・藤井千代・後藤時子:障害者ピアサポートの専門性を 高めるための研修の構築.日本精神科病院協会雑誌、36 巻 10 号、p.20-25、(2017)

 

自ら障害や疾病の経験を持ち、その経験を生かしながら、他の障害や疾病のある障害者のための支援を行うもの

厚生労働省

 

一般に同じ課題や環境を体験する人がその体験から来る感情を共有することで専門職による支援では得がたい安心感や自己肯定感を得られること

 

障害者総合福祉推進事業「ピアサポートの人材育成と雇用管理等の体制整備のあり方に関する調査とガイドラインの作成」

 

その病気を持つ人にしか分からない悩みがあり、

家族や友人に伝えてもなかなか共感が得られず、

また悩んでしまう事もあるでしょう。

そんな時、同じ病気を持ち、同じ悩みを抱えている人と知り合ったら

自然と話をしたくなりますよね。

そして、その人が同じ悩みを乗り越えていたら

自分も出来るかもしれない!

と、前向きな気持ちになり一歩前に進めるかもしれません。

また、自分だけでは得られなかった情報が得られたりします。

 

障害者ピアサポートのひとつとして、病気を持つ当事者、その家族を中心とした「患者会」という団体があります。

先天性心疾患であれば、『全国心臓病の子どもを守る会』の中にある『心友会』がそれに当たります。

www.heart-mamoru.jp

 

では、今後もこのような患者会SNSでのコミュニティが増えていけば

病気を持っていても住みやすい社会になるのでしょうか。

現在も、様々な患者会が発足し

病気をもっと知ってもらいたい、住みよい社会にしたいと活動しています。

ですが、現状はなかなか変わりません。

 

ピアサポートのメリット・デメリット

ピアサポートは、当事者であれば特に行うための資格などは必要ありません。

ピアサポートを受ける事は以下のようなメリットがあります。

 

・体験の共感・共有ができ自己肯定感が得られる

・体験に基づき相談ができるため、病状の説明などが必要ない。

・自分と同じ病気を持ちながら生活している姿が、ロールモデルとなり助言も受け入れやすい。

 

では、デメリットはどうでしょう。

 

・愚痴の言い合いになる危険がある

・前向きなロールモデルでないこともある

・そのコミュニティやピアサポートへの依存

 

共感できる部分が多いからこそ、現状への不満も言い出したら止まらない…

なんていうこともあります。

ただ話を聞いて欲しいだけであれば問題ありませんが、

このようなやり取りでは

悩みや不安を解決する事や

自己肯定感を高める事は難しくなります。

 

そして、デメリットの中で「コミュニティやピアサポートへの依存」は

特に注意したい点です。

 

「なった人にしか分からない。」

私は、理学療法士として患者さんのリハビリをしています。

その中で、よく言われる言葉があります。

 

「(病気に)なった人にしか分からないよ。」

「なった事ないから、そう言えるんだよ。」

 

その通りです。

 

ありがたいことに、私は元気に産まれ、大きな病気や怪我もなく育ちました。

リハビリ職を選びましたが、リハビリは受けたことがありません。

 

そんな私に、この言葉はとても深く刺さります。

もちろん気持ちは理解できないけど、理解したいと思った私を拒絶された気分でした。

これは、障害者が作る壁だと思っています。

(障害受容の問題でもありますが、今回は割愛します。)

 

患者同士のコミュニティやピアサポートへの依存も同じように、他者の拒絶に繋がる危険があります。

自分と同じ病気を持ち、共感してくれる人の存在はとても大きく心強いものです。

しかし、そこに依存し自分とは違う人、

病気を持っていない人に対して、「あなたには分からない」と拒絶することは

本来ピアサポートの目指すものとは違います。

 

自分と境遇が異なる他者であっても受け入れることができなければ、社会で生きていく事はとても大変です。

 

多様性の社会に必要なもの

近年、「多様性」という言葉が使われるようになり

障害もひとつの個性として、社会に受け入れられるようになってきました。

多様性と一言で言っても

そこには様々な属性があります。

年齢、性別、国籍、人種、障害の有無・・・

価値観、宗教、学歴、受けてきた教育・・・

 

つまり、全く同じ人なんていないのです。

 

同じ病気を持っていても、育ってきた環境や受けてきた医療は違います。

同じ病気を持つ人たちが集まっても、またそこで差別化が始まる事があります。

自分は手術を〇回している、あの人は有名な先生に手術してもらってる…

いわゆるマウントを取り始める人が少なからず現れます。

もちろんこの現象は、病気があってもなくても集団である以上見られるものなのです。

 

問題はそこなのではないでしょうか。

 

ピアサポートで得られる自己肯定感とは

自分自身を受け入れ、尊重し、ポジティブに捉えることができる感情のことをいいます。

他者と比較して何ができるか、何を持っているかなどで優劣を決めるのではなく、評価や成果の有無にかかわらず自分軸を持ち、そのままの自分を受け入れます。(人事労務用語辞典から引用)

 

他者との比較の中でしか自分の価値を見出せない人は、自己肯定感が低いと言われます。

社会は、様々な属性を持つ人が集まって作り上げています。

異なる属性のものを同じ物差しで測って意味があるのでしょうか?

多様性が必要と言われる社会となり、私たちは新たに多様性を受け入れるという努力が必要になってきました。

自分とは違う相手を受け入れる。

ピアサポートは、その為の準備だと思います。

 

自分を知ってもらう、相手を知ろうとする努力

ピアサポートを受けながら、病気の有無に関係ない『仲間=ピア』を作りましょう。

クラスメイト、職場の同僚、同じ趣味の人、

どんな共通項でも構いません。

まずは、自分のことを知ってもらう努力をしましょう。

「どうせ分からない」と思って努力をしなければ何も変わりません。

病気のことも含めて、自分というものを伝えていきます。

人に伝えるためには、自分がしっかり理解していないといけません。

そして、相手のことも知ろうとする努力をしましょう。

そこで知り合った人たちにも、それぞれ悩みや不安はあります。

決してその悩みを自分と比較してはいけません。

 

他者と比較しない事は、とても難しいと思います。

だからこそ、ピアサポートは必要なのです。

他者と比較して羨ましく、自分の状況がつらく感じたら

いつでも助けを求める場所があることが大切です。

ピアサポートは、患者同士が支え合い、助け合い

個人が社会で自立していくための支援です。

団結力を高めて、社会に訴えるだけでは社会は変わりません。

個人が変わっていかなければ、社会への不満は尽きません。

『ピア』が増えるほど、社会は住みやすくなります。

病気だけではなく、様々な『ピア』を見つけていきたいものです。

 

まとめ

将来的に、ピアサポートがひとつの職種として確立されたら障害者の働き方にも変化がでるかもと期待しています。

ピアサポートは、病気を持っていない私にはやりたくてもできない事です。

悔しい!でも、仕方ないので自分にできることをやっていきます。

親主体の移行期準備。その時、子どもは?

先天性心疾患の移行期は12~20歳と言われます。

その間に、小児循環器科から成人循環器科への転科準備を行います。

未成年であることもあり、その転科準備は親が主体となります。

しかし、生涯を通して医療と関わっていくのは当事者である子どもです。

移行期の中で子どもはどのような立場にあるのでしょうか。

以下の研究報告から現状を把握していきます。

www.jstage.jst.go.jp

転科の準備は?

成人循環器科への転科について、親は医師からの説明や自身での情報収集の中で必要性を知る機会が多いと思います。

しかし、具体的にどうしたらいいのかまで理解し、行動している人は少ないようです。

研究報告の中で、転科について親は「検討しているが準備はしていない」という回答が32名中13名と一番多くなっています。

 

それに対し、子どもは35名中19名と半数以上が「よくわからない」と答えています。

親以上に子どもは情報がなく、考えることすらできていません。

 

移行に対する認識では、子どもは「医師が変わることへの不安」を多く訴えています。

産まれた時から、自分と共に病気に向き合ってくれている医師は子どもにとって特別な存在です。

この不安は、医師がいなくなったら自分がどうなってしまうのか、この先生しか自分を分かってくれないのではないか、という医師への依存も見えてきます。

医師への信頼はとても大切ですが、それが依存や執着になると円滑な移行を阻害します。

「よくわからない」ことは、人を不安にさせます。

不安があると、人は安定を求め現状に執着します。

子どもは移行について、医師との関係性の変化が「よくわからない」ため不安になっています。

その解決には、小児科医師と移行先の医師が連携をとり子どもに説明しながら受け入れてもらうことが必要です。

周りが思っている以上に、子どもはよく分かっていないのです。

 

自分の病気は知ってる?

実は、子どもは自分の病気についてもよく分かっていないようです。

病気の認知に関する質問に対し、診断名は35名中33名と実に95%近くが理解していました。

しかし、そのうち18名は「心臓が悪い」「うまれつき穴がある」などの漠然とした内容でした。

さらに具体的な病気の内容を知らない子どもが7名いました。

ここで問題となるのは、説明する時期です。

親が初めて子どもに病気について告知した時期は「幼児期」が最も多く

その後、改めて病気について説明したのは「学童前期」が多いようです。

子どもは幼児期に、「心臓が悪い」ことを知り

小学校くらいで「心臓に穴がある」など自分がどういう病気なのかを教わります。

そして、15歳以上になった子どもたちもその頃の記憶、知識のままなのです。

 

子どもは自分で情報を得ることがなかなか出来ません。

親や医師からの継続的な情報提供が必要なのです。

中学生になれば理解力は上がり、自身の身体の変化も感じます。

女性であれば、月経が始まり妊娠や出産の話も必要でしょう。

親や医師は、子どもの成長や年齢に応じて適宜説明していくことが大切です。

 

小児外来に大人がいる?

この研究報告の対象者は小児外来に通院中の患者です。

年齢は15~38歳と幅広く内訳は

 15~18歳  17名

 19歳以上  18名

となっています。

38歳で小児外来に通っているという現状は見逃せません。

移行医療かいかに進んでいないのかという表れだと思います。

そして、19歳以上の18名のうち7名は親の付き添いがあります。

対象者の心機能はNYHA分類Ⅰ~Ⅱと比較的軽度と言われるレベルです。

日常生活に大きな制限がなくても、これだけの年齢まで親が付き添っているのが現状です。

心機能の低下がある子どもにおいては、更に親や医師の関与が強くなることが予想されます。

 

まとめ

今回の研究報告を読んで、移行期において転科の準備も受診も親が主体的に動き、子どもが取り残されている印象を受けました。

移行準備は、親と医師だけで進めるものではありません。

当事者である子どもにもしっかり説明し、意見を求めていくことも必要です。

医療体制の整備と患者の自立には、まだまだ課題が多そうです。

自立への一歩は16歳

今回も先天性心疾患の移行期を考えます。

先天性心疾患の移行期には患者の自立が必要とお伝えしました。

 

yandyandy.hatenablog.com

 

自立に必要なことは、自身を理解し自己決定が出来ることです。

しかし、子供は親の保護責任下にあり最終決定は親の承諾を要します。

では、成人するまで自立はできないのでしょうか。

いえ、成人してからでは遅いのです。

 

以前、ACHD NIGHTという日本成人先天性心疾患学会のウェビナーで「ACHDを持って働く」という回がありました。

その中で、将来についてACHD当事者が周囲と相談したいと思う年齢は16歳というデータがありました。しかし、実際に家族と話しているのはもっと遅い時期だといいます。

 

16歳。

ACHDへの移行期と言われる12〜20歳のちょうど真ん中に当たります。

この時期に自己決定が必要になるのは、高校卒業後の進路でしょうか。

 

高等学校卒業者の学科別進路状況(令和3年3月卒)

       f:id:yandyandy:20220512081815j:image文部科学省

 

普通科の高校に通う高校生の7割近くが大学進学の進路を選んでいます。

先天性心疾患を持つ高校生は、他の高校生に比べて仕事に制限があることも多く、高校卒業してすぐに就職という道は選びにくいかもしれません。

進学する場合、志望校決定は早い人だと高校2年生の春で、一般的には高校3年生の春〜夏休みと言われています。

高校入学してしばらくすると、志望校決定に向けて自分のやりたい事や将来を考え始めるでしょう。

自立に向けて自分と向き合う大切な時期です。

 

自分はどんなことがしたい?

自分はどんなことができる?

 

心疾患がある事で、できることは限られるかもしれません。

でも、そんな中で自分がやりたい事をやるために何が必要なのか。

どうしたらできるのか。

やってはいけないこと、注意点なども医師に相談しながら考える必要があります。

 

先天性心疾患を持つ子供達は、産まれた時から制限されることが多くそれが当たり前になっています。

その中で「なにができるかな」と積極的に考えられる子供もいますが、それが難しい子供もいます。

そんな時は、親や医療従事者などからその子の「できること」をしっかり伝えてあげられるといいなと思います。

「あれもだめ、これもだめ」では、何もやりたくなくなりますよね。

「これは無理だけど、これならできるからこんな風にしてみたら?」のようなポジティブな声かけができるのが理想です。

あくまで理想なので、現実は難しいかもしれません。

でも、子供の希望や想いは出来るだけ汲んであげて欲しいのです。

その子を制限するものは「心疾患」であって、親や医療者ではないのです。

 

16歳、高校生。

まだまだ親から見れば子供です。

でも、子供ながらに将来を考え自分の足で歩き出す準備をしています。

自立に向けて、色々なことを考え悩みます。

親としては口を出したくなりますが、まずは話を聞いてあげて欲しいと思います。

大切なことは、自己決定できる環境を作る事です。

最終的な決定はまだ親かもしれませんが、話し合って一緒に考える事でそこに自分が参加したと思えることが大切です。

 

高校入学という新しい節目をきっかけに、親子で将来について話し合ってみてはいかがでしょうか。

 

※追記

当事者のブログを拝借。

やはり高校入学はいいタイミングのようです。

wata-congenital.hatenablog.jp

移行医療を考える

『先天性心疾患の成人への移行医療に関する提言』を読んでます。

http://sentenseishinshikkan2.pdf (umin.ac.jp)

今回は、この提言の内容を基に先天性心疾患の移行医療を考えてみました。

 

移行期っていつ?

移行期と言っても、何歳からが成人先天性心疾患(以下、ACHD)です!という線引きはなく対象年齢は12〜20歳とおおまかな範囲となっています。病気への理解や自立への準備、移行医療への引き継ぎなど、年齢だけでは規定できない部分が大きいのです。

 

移行医療とは?

提言の中に

「先天性心疾患の成人への移行医療には、患者の自立と成人期医療体制への移行の両者が含まれる」とあります。

 

○患者の自立

患者の自立とは、自らの病気を理解して自己決定ができるようになることです。

その為には、小児期から自分の病気についての教育を受ける必要があります。

円滑な移行のためには、病気を理解できる6歳頃から心臓病に関する教育を始め、15歳頃までには自分の病名や手術内容を完全に理解しておくことが望ましいようです。

この時、病名だけを覚えるのではなく、自分の心臓をしっかり想像できるように図表を用いて医師や医療関係者は具体的に説明していかなければいけません。

6歳から15歳まで、しっかり時間をかけて教育していくことになるでしょう。

しかし、誰がどのようにこの教育に関わっていくのかまだ漠然としていて、小児分野での確立が望まれます。

提言の中にもありますが、個人的にも教育に関しては看護師の力が大きいと思います。

小児期は、手術を繰り返している途中の子どももいるでしょうし、親もまだ病気に対する理解が不十分で、将来に対する不安もあるでしょう。

この時期は、子どもと共に親へのケアと教育も必要だと思います。

移行期を迎えた時に、小児医療や親子間の依存があると移行は円滑に進みません。

親も子どもと歩き出せるように、一番多くの時間関わるであろう看護師にその役割が期待されています。

問題としては、ACHD専門看護師が少ないこと。

教育まで担うことで看護師の負担増加が考えられるところでしょうか。

 

○成人期医療体制への移行

患者の成長、自立に伴い小児循環器科から成人循環器内科への移行が望ましいと言われています。

なぜ移行が必要なのでしょうか。

小児循環器科医は先天性心疾患については熟知していますが、成人期の内科疾患(生活習慣病,加齢に伴う変化,悪性疾患など)や妊娠出産などの対応に慣れていません。また、小児医療施設であれば診察環境が成人向きではありませんし、小児循環器科医の人数は少なくマンパワーに限りがあります。

これらの理由からも、移行は必要でありこの移行を円滑に行うことが昨今の課題なのです。

 

移行医療体制の問題

最近は、移行期外来という小児診療から成人診療への移行を円滑にするための外来があります。

成人診療施設に一気に移行するのではなく、小児診療施設とどちらも受診しながら徐々に移行していく形です。

このスタイルは患者側の安心感はありますが、医療側の連携がかなり密でないと患者側に混乱が生じる危険もあります。

医療機関の連携は、移行医療の基軸です。

移行後の医療体制として、以下のようなネットワークの構築を目指しているそうです。

http://sentenseishinshikkan2.pdf (umin.ac.jp)

ACHDに関わらず、最近はかかりつけ医を持ちましょうと言われていますよね。

病院の規模や機能による役割分担は、医療制度整備に欠かせないことなのでしょう。

 

では、ACHDの専門医、または専門医ではないがACHD病態を理解している医師がどれだけいるのでしょう。

成人先天性心疾患専門医総合修練施設も関東が中心で、まだまだ地域格差が大きいのです。

どんなに患者が自立しても、受け入れ先がなければ移行はできません。

かかりつけ医を持ちたくても、ACHDを診たことのない医師では患者は不安です。

 

この移行医療体制の問題は、ACHDだけではなく小児期発症慢性疾患という広い範囲で共通の課題となっています。

https://transition-support.jp/about

移行期支援者養成事業はとても気になります。

今後、移行医療に係わる人が増えてくることを願います。

 

移行医療だけど医療だけじゃない

移行期に必要な教育や支援は、病気や手術に関する事だけではありません。

社会において自分が受けられる医療保障制度、社会保障制度をしっかり学んでおくことは、就労を含め社会的、精神的自立に繋がります。

医療機関であれば社会福祉士の役割が大きいでしょう。

このように、移行医療には様々な職種が情報を共有していくチーム医療が必要不可欠です。

しかし、医療機関の医療チームだけでいいのでしょうか。

私達が生活しているのは医療機関ではなく地域社会です。

地域社会も巻き込んだ移行医療を考えていく必要があると思います。

小児期から移行期では学校生活、移行期から成人期では就労や一人暮らしなどの生活環境も大切な要素です。

先天性心疾患を持って産まれた時点で、その子の人生に『医療』が含まれます。

『生涯医療』と言われるように、根治手術を終えても生涯に渡り定期的な診察や治療が必要な事が多いのです。

でも、その子の人生全てが『医療』ではありません。その子の生活があって、そこに医療があるだけなのです。

移行医療を考えていく上で、この地域社会との関わりは必ず必要で、医療従事者もその視点は忘れてはいけません。

 

まとめ

移行期医療センターの設置など、少しずつですが移行医療体制を整える動きがでています。

しかし、医療体制の整備は、医師数の増加も含め一朝一夕で実現できるものではありません。

個人が今できることをやるしかありません。

自分で考え、自己決定していく。

疾患の有無に限らず必要なことですね。

さて、私には何ができるでしょう。

 

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